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2025-09-04

UIJターン希望者の増加傾向と実現率のギャップ ― 「地方で暮らしたい人」の現実 ―

■ はじめに

地方移住がかつてないほど注目を集めています。コロナ禍をきっかけにリモートワークが広まり、「地方で暮らす」「自然と共に働く」ライフスタイルに憧れを抱く人は増加しました。
しかし実際には、希望は増えているのに、移住の実現には至っていないというギャップが顕著になっています。
本稿では、移住希望者の動向と、受け入れ側の課題、その解決に向けたアプローチをデータと事例から整理します。


■ 移住希望者の動向(統計からの視点)

◯ 移住希望は過去最大
ふるさと回帰支援センター「移住希望地ランキング(2023年)」では、問い合わせ件数が前年比約110%増
特に20〜40代の子育て世代・フリーランス層に人気が集中

◯ 実際の移住実現率は2割未満
同センターの「移住実態調査」では、問い合わせから実際に移住に至った割合は18.4%
多くが「情報収集段階で断念」または「地域とのマッチング不成立」


■ なぜ“移住したい人”が“移住できない”のか?

【障壁カテゴリ】 【主な内容】
 住まい      賃貸物件不足、空き家の流通不足、リフォーム不可など
 仕事       地域内の求人が少ない/職種ミスマッチ/フリーランス支援体制が弱い
 地域情報     生活・教育・医療情報が探しにくい/“実際の暮らし”のイメージがつかない
 地域との関係性  移住相談はできても、地域内の人や団体との接点がない


■ 地域側の受け入れ体制にある課題

・窓口対応が「制度案内」に終始
 → 住民との関係づくり、地域のリアルな魅力紹介まで手が回っていない

・「移住=定住」の前提が強い
 → 関係人口や週末居住などの柔軟な形に対応できない自治体が多い

・ミスマッチを防ぐ仕組みが乏しい
 → 希望者のニーズ(保育園/起業支援/農業チャレンジ等)と地域の実情をすり合わせるプロセスが不在


■ 注目事例:成功する移住促進の共通点
◎ 島根県海士町
「関係人口→短期滞在→中期居住→移住」の段階設計で移住者の定着率が高い
**地域住民との“迎える対話”**を重視したプログラムを運用

◎ 岐阜県高山市
子育て世帯向けに「生活環境まるごと見学ツアー」+オンライン相談の継続支援
地域の医療・教育担当者との事前面談を導入

◎ 福岡県糸島市
フリーランス向けの移住者専用シェアオフィス+地元企業とのマッチング制度を整備
「自分らしく働く」を軸にした移住後の暮らし支援が好評


■ 改善に向けた提案

【項目】       【アプローチ】
 情報発信      「制度一覧」よりも「暮らしのストーリー」重視。動画・SNS活用や移住者インタビューが効果的
 マッチング支援   希望者の価値観・目的と地域課題の接点を意識した対話型相談・地域案内人制度の導入
 受け皿づくり    空き家リノベ事業/仕事+住まいパッケージ支援/多拠点居住者の制度化


■ おわりに

「地方に行きたい人がいる」のに、「受け入れられない地域」がある。
このミスマッチを埋めるには、制度よりも“関係性”をつくる発想が必要です。

みらい株式会社では、自治体と移住希望者をつなぐ伴走支援や、空き家活用・地域内案内人制度の構築支援、移住促進プロモーションの設計などを通じて、“人と地域の縁を育てる”取り組みを展開しています。

“移住”をゴールにしない、“地域とのつながり”から始める支援へ。
それが、次の地方創生のかたちです。

【投稿者】

妹尾 暁​

妹尾 暁​

みらい株式会社 代表取締役

一般社団法人Smart Citizen Hub代表理事, 熊本県チーフ・デジタル・オフィサー(CDO), 天草市DX推進アドバイザー, 熊本保健科学大学経営アドバイザー

専門分野は、DX(デジタルトランスフォーメーション)、BPR(業務改革)、AI・IoT、経営戦略、事業企画、新規事業開発、教育・人材育成、プロジェクトマネジメント、マーケティング、組織設計など多岐にわたる。 最近の趣味は、メダカの飼育と旧車いじり。