コラム・レポート

コラム
2025-07-10

地方創生を取り巻く環境の推移 〜政策の進展と、浮かび上がってきた課題〜              

■ はじめに

2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が制定されて以降、約10年が経ちました。全国の自治体が人口減少と地域経済の縮小に立ち向かうべく、さまざまな地方創生施策に取り組んできました。しかし、時代は変化を続け、コロナ禍やデジタル化の加速により、地方を取り巻く環境も大きく様変わりしています。本稿では、地方創生の取り組みがこの10年でどう進展し、どのような課題が浮かび上がってきたのかを整理します。

■ 進展したこと
① 関係人口の定着

かつて「移住・定住」が主軸だった政策は、現在では「関係人口」の創出に重点が置かれるようになりました。
地方と多拠点的につながる働き方・生き方が広まり、観光以上・移住未満の関係人口が各地に根付き始めています。

② 地域資源の活用とブランド化

地域の特産品や伝統文化を磨き直し、外貨を獲得する動きが進みました。
たとえば、農産物の輸出拡大、地域産業×ITによる6次産業化、伝統工芸のEC展開など、地域がもつ価値の再発見とビジネス化が進行中です。

③ デジタル実装の前進

「デジタル田園都市国家構想」によって、スマート農業、MaaS、防災DX、教育ICTの普及が急速に進みました。
特に中山間地域における通信環境整備や、ドローン・AIの活用は、労働力不足や地理的制約の克服に寄与しつつあります。

■ 浮かび上がった課題
① 効果の見える化とKPIの未整備

多くの事業が実施されたものの、「本当に効果が出ているのか」「何をもって成功とするのか」が曖昧なケースも目立ちます。
単年度での成果指標にとどまり、長期的な定着や波及効果を測る仕組みづくりはまだ道半ばです。

② 一過性の補助金依存

補助金に頼った短期的なプロジェクトが多く、持続性のあるビジネスモデルや地域主体の運営体制に移行できていない事例もあります。
補助金終了後の「地域に残る仕組み」が設計されていないまま終わるケースも散見されます。

③ デジタル格差と運用体制の弱さ

ICTツールの導入は進んでも、「使いこなす人材」や「活用を継続する体制」が追いついていない自治体が多く、
システムが形骸化するリスクも顕在化しています。地域の職員や住民に対する“デジタルリテラシー教育”も急務です。

■ これからの地方創生に求められる視点

「成果の測定」と「地域経営」の視点の融合
 地方創生を「行政の政策」から「地域の経営」へと転換し、数値に基づくPDCAと市民参画型の意思決定を両立させる必要があります。

若年層・女性の視点を活かした新たな事業創出
 多様な人材が地域で「稼げる仕事」「意味ある暮らし」をつくれるかが問われています。新しい価値観を受け入れる地域の寛容性も鍵になります。

■ おわりに

この10年で地方創生は確実に前進してきました。しかし、“やったこと”が“残る仕組み”になるには、いま一段の戦略的転換が求められます。
デジタルの力を活かしながら、地域が自らの力で未来を描く──そのための「次の10年」の地方創生が、今まさに始まろうとしています。

【投稿者】

妹尾 暁​

妹尾 暁​

みらい株式会社 代表取締役

一般社団法人Smart Citizen Hub代表理事, 熊本県チーフ・デジタル・オフィサー(CDO), 天草市DX推進アドバイザー, 熊本保健科学大学経営アドバイザー

専門分野は、DX(デジタルトランスフォーメーション)、BPR(業務改革)、AI・IoT、経営戦略、事業企画、新規事業開発、教育・人材育成、プロジェクトマネジメント、マーケティング、組織設計など多岐にわたる。 最近の趣味は、メダカの飼育と旧車いじり。