コラム・レポート

コラム
2025-10-11

地方創生における“人材の二重生活” ~副業・兼業・多拠点生活を地縁化の鍵に~

■ はじめに
かつて、地方創生のキーは「移住・定住」でした。
しかし近年、移住に踏み切れない人が「都市部に暮らしながら、地方と関わる」形態──いわゆる複数拠点生活、副業・兼業、関係人口的な働き方──を選ぶケースが増えています。
本稿では、この“人材の二重生活”という概念を整理し、地方創生との接点とその可能性を探ります。

■ 現状:副業・兼業という働き方の実態
• 労働政策研究・研修機構の調査によれば、「仕事をしている人」のうち副業をしている者の割合は 6.0%(男性5.1%、女性7.4%)と報告されています。
• また、別の調査では正社員の副業実施率は 7.0%、一方副業意向率は 40.8% と、大きなギャップがあることが明らかになっています。
• さらに、エン・ジャパンのアンケートによれば、ビジネスパーソンの 75%が副業・プロボノに興味があると回答。そのうち、副業希望者は67%に上ります。
• また、地域おこし協力隊制度では、2023年度の隊員数が 7,200人 に達し、過去最多を更新。受け入れ自治体も 1,164団体 に拡大したと報じられています。
これらのデータから、副業・兼業という働き方が一定の基盤を持ちつつあり、「地方とつながりながら働きたい」という志向は着実に広がっていると言えます。

■ “二重生活”型人材が地域にもたらす価値
1. 即戦力の専門性投入
 都市部の専門性を持つ人材が、地方の中小企業や自治体プロジェクトに関わることで、短期・中期の課題解決に寄与できます。
2. 新しい視点・スキルの流入
 外部視点を持つ人材が地域課題に入ることで、「地域の常識」にとらわれない発想が持ち込まれ、イノベーションが生まれやすくなります。
3. ゆるやかな定着の入口
 最初は関係人口 → 継続的な関与 → 移住・定住へのステップを踏む可能性もあります。地域との関わりのハードルを下げる“導線”になるのです。

■ 挑戦と乗り越えの視点
【課題】            【対応策】
業務設計が不十分         副業人材が入りやすいプロジェクト設計、目標・報酬の明文化
契約・報酬制度の整備不足    業務委託、兼業契約、公募型モデルなど複数方式の導入
地域理解・コミュニケーション  地域案内人制度、オンサイト交流、定期ミーティング設計
法制度・社会保険の壁      副業兼業の制度理解、社会保険負荷の分担仕組みの検討

■ 事例:二重生活型人材の地域参画
• ある地方都市では、都市部IT企業に勤めながら、地元の観光振興プロジェクトに副業として関わる人材が複数存在。彼らは週末や夜間に地域企業向けのWeb支援やマーケティング支援を提供し、それが地域の事業者の売上向上につながった事例があります。
• 地域おこし協力隊経験者の中には、任期後に都市の仕事を辞めず複数拠点で暮らしながら地域に関わり続ける人が一定数います。総務省の定住率資料では、任期終了者の定住率は約 65% 程度という報告もあります。

■ おわりに
地方創生における“人材の二重生活”は、これからの地域戦略における選択肢のひとつです。
「移住するか否か」ではなく、「どれだけ関わるか」を選べる環境をつくることこそ、柔軟で持続可能な地域づくりの鍵になるでしょう。
みらい株式会社では、副業人材マッチング支援、プロジェクト設計支援、地域参画制度設計などを通じて、二重生活型人材が地域で花開く仕組みづくりをお手伝いします。

■ 参考・出典
• 内閣府 地方創生推進事務局「デジタル田園都市国家構想」
 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/index.html
• 総務省「地域における官民連携の促進に向けて」
 https://www.soumu.go.jp/main_content/000883206.pdf
• 内閣府「地方創生関連予算(令和6年度)」
 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/
• デジタル庁「地方公共団体におけるデジタル化推進」
 https://www.digital.go.jp/policies/local_governments/
• 地域経済分析システム(RESAS)
 https://resas.go.jp/
• JBpress「全国自治体DXランキング2023」
 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/79809

【投稿者】

妹尾 暁​

妹尾 暁​

みらい株式会社 代表取締役

一般社団法人Smart Citizen Hub代表理事, 熊本県チーフ・デジタル・オフィサー(CDO), 天草市DX推進アドバイザー, 熊本保健科学大学経営アドバイザー

専門分野は、DX(デジタルトランスフォーメーション)、BPR(業務改革)、AI・IoT、経営戦略、事業企画、新規事業開発、教育・人材育成、プロジェクトマネジメント、マーケティング、組織設計など多岐にわたる。 最近の趣味は、メダカの飼育と旧車いじり。