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レポート
2025-10-11

デジタル実装度ランキング2024年版から読み解く課題と先進事例― “DX格差”の実態と克服への道筋 ―

■ はじめに
地方公共団体におけるデジタル実装(DX導入・住民サービスオンライン化など)は、政府が掲げる「デジタル田園都市構想」の中核施策の一つです。
しかし、全自治体が同じ速度で進められているわけではなく、デジタル実装度ランキングや調査結果を見ると、地域間で大きな格差が存在していることがわかります。
本レポートでは、最新の公表資料をもとに、実装度の現状、格差の要因、先進事例、そして改善に向けた示唆を整理します。

■ 実装度の現状:導入済自治体と未導入自治体
• 内閣官房「各地方公共団体のデジタル実装状況」資料によれば、2024年3月時点でデジタルサービス未実装の自治体は38団体。大部分は小規模町村や離島自治体であると報告されています。
• 一方、デジタル庁が運営する「自治体DXの取組に関するダッシュボード」では、市区町村のDX推進状況を「推進体制」「自治体業務DX」「住民サービスDX」の3領域で可視化しており、各自治体の取り組み度合いや比較が可能です。
• また、独自調査によれば、DX推進計画の策定自治体は前年よりも増加し、全体では49% → 55%、人口5万人未満自治体では 35% → 43% に上昇していると報告されています。
これらの数値から、導入“しているかどうか”という段階はかなり進んでいるものの、「どこまで使えているか」「サービスとして稼働しているか」には大きな開きがあることが見えてきます。

■ 格差の要因:なぜ実装度に地域差が出るのか
以下が主な要因として挙げられます:
【要因】           【内容・背景】
人材確保・育成の難しさ     多くの自治体でデジタル人材が不足。「庁内に適切な人材がいない」「予算制約」が主要な懸念。
財源・予算制約         小規模自治体では他施策優先でDX予算が確保しにくい。
体制整備の遅れ         DX推進本部・横断組織を設けていない自治体では施策が散発的になる傾向。
住民・現場とのギャップ    導入したICTサービスが実際の住民の日常・使いやすさに結びついていないケースが多い。
標準化・共通仕様への対応力  地方公共団体の基幹業務システムの標準化・共通仕様化政策も進行中であり、各自治体で対応の能力格差がある。

これらの要因が複合的に重なって、実装度格差を拡大させていると考えられます。

■ 先進自治体・事例の紹介
いくつかの成功事例から、実装が進んでいる自治体の共通点と手法を探ります。
• さいたま市
 「全国自治体DX推進度ランキング2023」で市区町村部門1位を獲得。DX推進体制と施策推進力が高く評価されました。
• 鳥取県
 都道府県としては人口最少県ながら、同ランキングで全国3 位に入った実績があります。校務支援システム導入で、1人当たり年間150時間の業務削減を報告。
• 教育分野の進捗
 自治体規模別に見ても市区では53.8%、町で43.8%、村で42.6%の自治体が「進んでいる」と回答しており、教育ICT分野では比較的格差が出にくい傾向も観察されています。
これらの先進事例では、全庁横断の体制、住民利便性を軸としたサービス選定、伴走支援の導入が共通項として見られます。

■ 改善に向けた示唆と戦略
1. 段階的な実装フェーズ設計
 全機能一括導入ではなく、優先分野(住民サービス・オンライン申請など)から段階的に拡張する方式。
2. 標準化・共通仕様の活用
 国・都道府県での標準仕様・共通プラットフォームを活用して、初期負荷を軽減。
3. 中核人材設計と外部人材連携
 DX推進リーダーの育成、CDO、CIO補佐役の任命、民間支援機関との連携。
4. 住民視点の設計と利用促進
 導入したサービスの“使われる”仕組みを意識し、住民への導入支援や周知を丁寧に行う。
5. データ活用・PDCA推進
 導入後の効果測定、改善サイクル導入、横展開可能なモデル化を進める。

■ おわりに
デジタル実装度ランキングの背後には、地域間のリソース格差・体制差・人材格差が見え隠れしています。
ただし、導入済という数値だけで終わらない、**“使われて意味を生むDX”**こそが、地方の実質的な変革につながります。
私たちみらい株式会社では、自治体のDX実装支援、体制構築、住民参加設計、先進事例の横展開サポートなど、伴走的な支援を通じて、格差を縮める方向性を共に描いていきます。

【投稿者】

妹尾 暁​

妹尾 暁​

みらい株式会社 代表取締役

一般社団法人Smart Citizen Hub代表理事, 熊本県チーフ・デジタル・オフィサー(CDO), 天草市DX推進アドバイザー, 熊本保健科学大学経営アドバイザー

専門分野は、DX(デジタルトランスフォーメーション)、BPR(業務改革)、AI・IoT、経営戦略、事業企画、新規事業開発、教育・人材育成、プロジェクトマネジメント、マーケティング、組織設計など多岐にわたる。 最近の趣味は、メダカの飼育と旧車いじり。