コラム・レポート

レポート
2025-09-03

中小企業の経営者高齢化と“事業承継未対応率”の地域偏差 ― 地域経済の基盤が消失するという危機 ―

■ はじめに

日本の地域経済を支えてきた中小企業。しかし、今その根幹が静かに崩れつつあります。
その最大の要因が、経営者の高齢化と事業承継の遅れです。
帝国データバンクや中小企業庁の調査をもとに、地域別の実態と、打開に向けた方策を探ります。


■ 統計が示す「承継危機」の実態

◯ 経営者の平均年齢は過去最高を更新
帝国データバンク「全国社長年齢分析(2024年)」によると、中小企業の経営者の平均年齢は63.4歳と過去最高
**60歳以上の経営者が全体の67.5%**を占める

◯ “後継者未定”の企業が過半数
中小企業庁によると、全国の中小企業の約半数(127万社超)で後継者が不在または未定
特に地方部では、**人口流出・産業魅力度の低さから「継がせたくない」「継ぎたくない」**が深刻


■ 地域別傾向と“承継格差”

【地域】  【後継者不在率】  【特徴】
東北地方  約65%       農林業・建設業などで特に高齢化が顕著
四国地方  約63%       小規模・個人経営型が多く、承継モデルが成立しにくい
首都圏   約45%       M&A・外部承継など多様な手段が徐々に広がる傾向

※全国平均:約52%


■ 承継が進まない背景要因

・「承継=身内」が前提の価値観
 → 血縁承継にこだわる企業が多く、外部登用やM&Aが選択肢になりづらい

・経営者の“引退しづらさ”
 → 地域での影響力、従業員への責任感、資金調達不安などが足かせに

・情報・相談体制の不足
 → 商工会や金融機関でも、承継を専門とする人材や制度説明が不十分


■ 先進的な取り組み事例

◎ 山梨県「事業承継推進プラットフォーム」
県・商工会議所・金融機関が連携し、専門家による伴走支援+後継者マッチングを実施
2023年度はマッチング成功率が前年比1.6倍に

◎ 大分県由布市「おおいた事業承継ネットワーク」
M&A支援事業者と連携し、“第三者承継”を前提とした支援制度を展開
「個人商店でも承継できる」社会的意識の変化が地域全体に波及


■ 解決に向けた処方箋
【アプローチ】         【具体策】
 承継人材の発掘          地域おこし協力隊OB、関係人口、副業人材の活用
 承継を前提としたDX支援      見える化・マニュアル化で属人化を解消し、承継しやすい体制へ
 事業者への心理的ハードル低減   “相談=売却”という誤解を払拭し、「選択肢の提示」に重点


■ おわりに

中小企業の承継問題は、単なる経営者個人の問題ではなく、地域に根づく雇用・文化・技術の継承に直結する社会的課題です。
みらい株式会社では、地域金融機関・商工会議所・自治体と連携し、「継がせたい人」と「継ぎたい人」をつなぐ仕組みの構築支援を行っています。

“あと5年頑張る”の先に、誰かが待っている仕組みを。
その設計が、地域経済の未来を左右します。

【投稿者】

妹尾 暁​

妹尾 暁​

みらい株式会社 代表取締役

一般社団法人Smart Citizen Hub代表理事, 熊本県チーフ・デジタル・オフィサー(CDO), 天草市DX推進アドバイザー, 熊本保健科学大学経営アドバイザー

専門分野は、DX(デジタルトランスフォーメーション)、BPR(業務改革)、AI・IoT、経営戦略、事業企画、新規事業開発、教育・人材育成、プロジェクトマネジメント、マーケティング、組織設計など多岐にわたる。 最近の趣味は、メダカの飼育と旧車いじり。