コラム・レポート

コラム
2025-08-27

デジタル田園都市構想の進捗を読む 〜「つながる地域社会」は実現できるか?〜

■ はじめに

2021年、岸田内閣が掲げた「デジタル田園都市国家構想」は、都市と地方の格差を埋め、地域の可能性を最大化する国家的プロジェクトです。
“地方こそDXの主役に”というメッセージのもと、全国でスマート農業、地域MaaS、遠隔医療などの実証・導入が進められてきました。
あれから約3年、実際に地方はどう変わったのでしょうか。本稿では、進捗と課題を整理し、今後の展望を考えます。


■ 進み始めた「地域のDX化」

◯ 分野別で進む先進事例
スマート農業:ドローンによる農薬散布、センサーによる水管理、AIによる収穫予測など、特に大規模農業地帯で成果が報告されています。

観光・交通DX(MaaS):観光地ではアプリを通じた交通情報・宿泊・体験予約が一元化され、地域回遊性が向上。

教育ICT:GIGAスクールによる1人1台端末整備により、オンライン授業や個別最適化学習が可能に。

◯ インフラ面での恩恵
5Gや光ファイバー網の整備が進み、山間部でもリモートワーク・テレ診療ができるようになるなど、**「場所に縛られない暮らし」**が現実のものに。


■ 一方で見えてきた課題

◯ “見える成果”と“実装の壁”のギャップ
多くのプロジェクトが「実証実験止まり」で終わってしまい、住民の生活や行政運営にどう浸透しているかが見えにくいケースが散見されます。

◯ 担い手・仕組みの不足
導入しても、それを運用・活用する人材や体制がないと形骸化してしまう。特に小規模自治体では、プロジェクト推進の人手すら足りない状況も。

◯ 住民への還元が不明瞭
技術先行型になり、「住民にとってどう便利なのか」という観点が後回しになっている事例もあります。
本来は、“地域課題解決のための手段”としてのデジタルであるはずです。


■ 「技術ありき」から「地域の本質課題ありき」へ

今後重要なのは、「どんな技術を入れるか」ではなく、「地域が何に困っているのか」から出発する視点です。
そのうえで、既存の制度や慣習とどうすり合わせていくか、住民をどう巻き込むか、という“地に足のついた設計”が問われています。

■ おわりに

「デジタル田園都市構想」は、地方にとって単なる補助金事業ではなく、「自分たちの暮らしをどうデザインするか」の挑戦です。
構想の進捗はまだ道半ばですが、地域主体でその未来を描けるかどうかが、構想の“本当の成否”を決めることになるでしょう。

みらい株式会社は、地域の声から始まるDXを、今後も一緒に形にしていきます。

【投稿者】

妹尾 暁​

妹尾 暁​

みらい株式会社 代表取締役

一般社団法人Smart Citizen Hub代表理事, 熊本県チーフ・デジタル・オフィサー(CDO), 天草市DX推進アドバイザー, 熊本保健科学大学経営アドバイザー

専門分野は、DX(デジタルトランスフォーメーション)、BPR(業務改革)、AI・IoT、経営戦略、事業企画、新規事業開発、教育・人材育成、プロジェクトマネジメント、マーケティング、組織設計など多岐にわたる。 最近の趣味は、メダカの飼育と旧車いじり。